株主優待と同じように株主還元の一つとして配当金があります。
上場株の配当は所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%が支払い段階で徴収されるため、必ずしも確定申告する必要はありませんし、申告しない人も実際多いです。
しかし東京都・千葉県・埼玉県などで、上場株式の配当所得等に関する課税誤りがあったとおわびする市区町村が多数出てきています。
申告しない方は、なぜ課税ミスが起こるのかと不思議に思うでしょう。
これは、確定申告の対象とすれば徴収されていた所得税や住民税が戻ることがあるからです。
課税ミスの内容を紐解いていけば、こう申告すれば得するということも見えてきます。
配当を申告する方法は2通り
配当は申告対象とせず、マイナンバーに記録される所得の合計にも算入しないのが原則です。
例外として確定申告する場合、下記の2通りの方法があります。
- 総合課税
- 申告分離課税
具体的に見ていきましょう。
|総合課税
1つは総合課税による申告で、給与所得などに対する税率が高くない場合はこの方式で申告すると、適用税率が下がり還付金が生じるケースが多いです。
所得税率は、課税所得に応じて下記の税率が適用されます。
なお総合課税の配当所得に対しては、所得税額の最大10%を差し引く配当控除が利用できます。
課税所得 | 所得税率 | 配当控除後の実質税率 |
195万円以下に対して | 5% | -5%~5% |
195万円~330万円の部分に対して | 10% | 0%~10% |
330万円~695万円の部分に対して | 20% | 10%~20% |
695万円~900万円の部分に対して | 23% | 13%~23% |
900万円~1,800万円の部分に対して | 33% | 15%を超える |
1,800万円~4,000万円の部分に対して | 40% | |
4,000万円超の部分に対して | 45% |
国内上場株配当の配当控除は10%ですが、外国株配当は0%であり、投資信託の分配金のように、外貨建て資産の割合に応じて0%~10%の間で変わるものもあります。
課税所得330万円以下であれば所得税率が徴収済みの15%を下回るため総合課税の申告で確実に有利になり、配当控除によっては900万円以下であっても有利になる場合があります。
|申告分離課税
もう1つは申告分離課税であり、税率は変わりませんが、こちらを選ぶと株式の売却で生じた損失と相殺できます。
例えば年間10万円の配当からは所得税と復興特別所得税15,315円・住民税5,000円が徴収されますが、同じ年に生じた20万円の損失とともに申告したとします。
住民税5,000円は、給与など他の所得から生じる住民税から控除され、他の所得から生じる住民税が5,000円を下回っていれば差額が還付されます。
所得税等15,315円が、給与所得者であれば通常還付されます。
事業所得など他の所得から発生した所得税があれば15,315円分が控除されます。
株式の売却で生じた損失と配当が相殺しきれない場合は、翌年以降3年間繰り越すことが可能ですが、上記の例では10万円分が該当します。
自治体のミス1:総合課税によるもの
確定申告で総合課税を選択した場合は、通常住民税においても総合課税により計算されます。
しかしこの取り扱いは、住民税の納税通知書送達日までに申告された場合に適用されます。
上場株配当を申告対象とすることはあくまで例外であり、納税通知書送達日後の申告は住民税では無かったものとされ、申告対象としないという原則が適用されます。
住民税の納税通知書送達日に関わらず、総合課税で計算してしまったことが自治体の課税ミスです。
住民税の標準税率は10%、配当控除は最大で2.8%であり、総合課税の配当に係る実質税率は最小でも差し引き7.2%です。
これは、すでに徴収された5%分を明らかに上回ります。
課税ミスを正せば申告対象から外され、7.2%の税率が5%の税率に下がりますので、対象者には住民税が還付されます。
課税ミスを公表した自治体では、平成26年(2014年)度から平成30年(2018年)度までの5年間を還付対象とします。
自治体のミス2:分離課税によるもの
申告分離課税による方式も同様に、納税通知書送達日までの申告は住民税においても適用されますが、送達日を過ぎると申告対象から外されます。
申告対象から外されるのは、上場株配当だけでなく、上場株式の売買で生じた損失も含まれます。
年間10万円の配当と20万円の損失を申告した例で考えると、住民税5,000円分が問題です。
納税通知書送達日後の申告では、本来配当も損失も申告対象としないのですから、5,000円は取られたままです。
しかし納税通知書送達日後の申告でも、申告分離課税により処理し5,000円を還付もしくは控除対象にする課税ミスが生じています。
この場合は課税ミスを正した場合、5,000円を追徴課税します。
課税ミスを公表した自治体では、平成28年(2016年)度から平成30年(2018年)度までの3年間を徴収対象としています。
期限前でも所得税と住民税の課税方法は変えられる
給与所得者の場合、配当を申告対象とすることで所得税が還付になる申告が一般的です。
還付になる場合は、2月16日~3月15日という確定申告期間に関わらず、対象年分以降5年間は申告が可能です。
2018年現在で、確定申告書作成コーナーhttps://www.keisan.nta.go.jpにおいて平成25年(2013年)分から5年間申告できるようになっているのは、このためです。
ところで上記2つのミスの事例を見ると、総合課税では住民税還付に、申告分離課税では住民税追徴になります。
これならば「配当を総合課税で申告するなら、納税通知書送達日後に確定申告したほうが得じゃないか」と思うはずです。
ただ住民税の課税情報が決定した後に、これに基づいて児童手当の支給額が決まるなど社会保障にも影響するため、一般論として納税通知書送達日後の申告は望ましくないです。
納税通知書送達日後に申告すると、所得税では総合課税や申告分離課税で申告したのに、住民税では申告対象から外されます。
実は納税通知書送達日前でも、このようにすることは可能です。
所得税の確定申告を行えば、住民税の申告も行ったことになります。
しかし確定申告だけでなく住民税の申告も別途行うことにより、上場株配当を所得税では総合課税で計算、住民税では申告対象としないことも可能です。
配当と相殺できる損失の申告は遅れないよう
もう1つ納税通知書送達日後に申告を行うことのリスクは、損失を申告した場合に住民税だけ消えてしまうことです。
こうなると例えば所得税では10万円の損失を繰り越せるのに、住民税では繰越額0円と、二重に繰越損失を意識する必要があります。
例えば2019年に生じた損失は2020年4月までには確定申告し、その後も毎年定期的に申告するのが望ましいです。